多焦点眼内レンズについて

白内障の手術に使う眼内レンズは、「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の2種類があります。「単焦点眼内レンズ」は1カ所にピントが合い、「多焦点眼内レンズ」は複数の箇所にピントを合わせることができます。単純に多焦点眼内レンズの方が単焦点眼内レンズより優れているというわけではなく、それぞれのレンズの種類によって特徴があり、メリット・デメリットがあります。

メリット

  • 近方、遠方どちらにもピントを合わせることができる
  • 眼鏡からより開放された生活ができる

デメリット

  • コントラスト感度の低下
    コントラストとは、映像のシャープさや、濃淡のことをいいます。多焦点眼内レンズは、短焦点眼内レンズに比べて焦点を複数に振り分けているため、鮮明さやコントラストなどの見え方の質がやや低下します。
  • ハロー・グレア
    ハローとは光の周りに輪がかかったように光が見えることをいい、グレアは光が花火のように見える現象です。瞳孔が大きくなっている夜間で生じるため、夜間の運転時に気になる方がいらっしゃいます。

多焦点眼内レンズに適している方

  1. 白内障により、視力が低下したり、かすんだり、ぼやけ、まぶしさなど日常生活に不自由になった方
  2. 原則的に白内障以外に目の病気のない方
  3. 眼鏡からより解放されたいと希望している方(眼鏡が完全に不要になるわけではありません)
  4. 術後の見え方にハロー・グレア現象などが生じることや、新しい見え方に適応するのに数ヵ月かかる可能性があること、眼鏡が全く必要でなくなることはないなど、医師の説明をご理解していただける方

注意が必要・もしくは適していない方

  1. 夜間運転/職業上等近見作業の多い方(タクシー・トラック等、職業運転手、デザイナー、写真家など)
  2. 瞳孔径の小さい方
  3. ドライアイ・角膜混濁・チン小帯脆弱など通常の白内障手術で単焦点レンズを挿入する際にも慎重に検討すべき方
  4. 白内障以外の目の病気や身体の病気がある等を理由として医師が不適当と判断した方
  5. 多焦点レンズのデメリット等の医師の説明を理解していただけない方
  6. すでに片目に単焦点眼内レンズまたは他の種類の多焦点眼内レンズが挿入されている方
  7. 屈折矯正手術(レーシック等)を行ったことがある方

多焦点眼内レンズの種類一覧表

自費(選定療養適応) 自費
名称 パンオプティクス シナジー オデッセイ ファインビジョン ビビティ インテンシティ ミニウェル
外観
分類 3焦点回折型 連続焦点回折型 連続焦点回折型 3焦点回折型 焦点深度拡張型 5焦点回折型 焦点深度拡張型
焦点数 遠・中・近 遠~近 遠~近 遠・中・近 遠~近 遠方・遠中・中間・中近・近方 遠~近
焦点距離 40㎝・60㎝、∞ 33㎝~∞ 40cm~∞ 35㎝、75㎝、∞ 60㎝、∞ 40㎝・60㎝・80cm・133㎝、∞ 40cm~∞
乱視矯正 × ×
レンズの特徴 中間距離(1m前後)はわずかに見え方が落ちる 焦点は連続的で一定の見え方 コントラスト感度が良好、残余屈折に対する高い耐性 コントラスト感度(見え方の質)がいい コントラスト感度において、単焦点レンズに遜色のない自然な見え方 焦点間の視力の落ち込みが少なく、スムーズに見える 強度近視に対応、コントラスト感度が良好
ハロー・グレア やや少ない あり
夜間の運転には不向き
少ない 少ない ほとんどない 少ない ほとんどない
メーカー アルコン ジョンソン・エンド・ジョンソン ジョンソン・エンド・ジョンソン BVI アルコン イスラエルHanita イタリアSIFI
保険外の費用負担 片眼につきレンズ代+279,800円
(乱視用は+299,800円)
片眼につきレンズ代+299,800円
(乱視用は329,800円)
片眼につきレンズ代+279,800円 片眼につき手術・レンズ代・前後の診察などを含めて79万円(トーリックレンズの場合は89万円)

「クラレオン パンオプティクス」の特徴

選定療養で使用できる多焦点眼内レンズ「クラレオン パンオプティクス」は、日本で初めて承認された3焦点レンズです。
遠く、中間(約60cm)、手元(40cm)と3つの焦点を持ち、読書、パソコン、料理、スポーツなど、実生活に適した距離がクリアに見えるように設計されています。
特に中間距離において優れているため、1日の中でデスクトップパソコンでの作業の時間が多い方にも特におすすめできるレンズです。
また、乱視矯正ができるトーリックタイプもあるため、乱視がある人も選択できる多焦点レンズです。
アルコン社における最新の眼内レンズ素材Clareonの採用により、レンズの高い透明性を実現しています。手術後に発生しうる、レンズ内部に発生する水泡やレンズ表面に発生する微細な水滴を抑制し、手術後もレンズの透明性を維持することができます。

クラレオン パンオプティクス(乱視なし)279,800円(税込)
クラレオン パンオプティクス(乱視あり)299,800円(税込)
※上記金額に加えて手術費用(保険診療分)が別途かかります。

「テクニス シナジー」の特徴

選定療養で使用できる多焦点眼内レンズ「テクニス シナジー」は、焦点深度拡張型と二焦点を組み合わせた幅広いピントをもつレンズです。2つの眼内レンズの長所を組み合わせており、33cmから遠方にかけて連続的に良好に見えます。コントラスト感度が比較的高く、多焦点眼内レンズの中でも見え方の質が良いです。
連続焦点なので、ゴルフや運転などアクティブな生活をされる方、また33cmの近方にも合うため日常生活でなるべく眼鏡を装用したくない方におすすめできるレンズです。
乱視矯正のレンズもあるため、乱視がある方も選択できます。
ハローグレアをやや感じやすく、対向車のライトが大きく眩しく見える可能性があるため、夜間の運転を頻繁にされる方は注意が必要です。

テクニス シナジー(乱視なし)279,800円(税込)
テクニス シナジー(乱視あり)299,800円(税込)
※上記金額に加えて手術費用(保険診療分)が別途かかります。

「クラレオン ビビティ」の特徴

「クラレオン ビビティ」は、「波面制御型焦点深度拡張レンズ」を使用した2023年6月にアルコン社から販売された最新の多焦点眼内レンズです。
多焦点眼内レンズにおけるデメリットであった、コントラスト感度の低下や、ハローグレアなどの異常光視現象が改善されており、単焦点レンズと同程度となっています。
遠方から中間、実用的な近方距離まで切れ目なく見える設計で、スポーツや夜間の運転をされる方にもおすすめできるレンズです。
老眼鏡の装用機会を減らしたい人、近くの見え方も妥協したくない人には推奨できません。
「ビビティ」は単焦点眼内レンズの構造に近いことから、緑内障や糖尿病網膜症などほかの眼疾患がある方でも執刀医による判断で、「慎重実施」により手術・挿入が可能になる場合があります。

クラレオン ビビティ(Clareon Vivity)279,800円(税込)
※上記金額に加えて手術費用(保険診療分)が別途かかります。

「ファインビジョン」の特徴

従来では「自費診療」の枠組みにあった「ファインビジョン」ですが、2023年に新たに「選定療養」として厚生省に承認されました。2010年に登場した世界初の3焦点眼内レンズです。
35cm、75cm~遠方に焦点が合うため、日常生活で必要な距離をカバーでき、ほとんどの場合で眼鏡が不要になります。従来の多焦点レンズに比べてコントラスト感度が高く、見え方の質がいいです。瞳孔径に応じて光量の振り分けを行う構造になっており、夜間も良好な視界を得ることができます。その代わり暗所での見え方が衰えてしまうので、暗いところでは手元の明るさを確保する必要があります。

ファインビジョン(Fine Vision)279,800円(税込)
※上記金額に加えて手術費用(保険診療分)が別途かかります。

「テクニス オデッセイ」の特徴

選定療養で使用できる多焦点眼内レンズ「テクニス オデッセイ」は連続焦点回折型に分類され、40cm程度の近方から遠方まで連続的な明視域を持つ多焦点眼内レンズです。シナジーより夜間のハローの発生を抑えられており、まぶしさが軽減されています。コントラスト感度においても、単焦点レンズには劣りますが比較的良好な感度を保つことができています。また、残余屈折に対する高い耐性があり、良好な裸眼視力を目指しやすくなっています。
2024年11月より取り扱いを開始します。
乱視がある方も選択できる多焦点レンズです。

テクニス オデッセイ (TECNIS odyssey)乱視なし299,800円(税込)
テクニス オデッセイ (TECNIS odyssey)乱視あり329,800円(税込)
※上記金額に加えて手術費用(保険診療分が別途かかります。)

「インテンシティ」の特徴

5焦点回折型であり、遠方・遠中(133cm)・中間(80cm)・中近(60cm)・近方(40cm)の5カ所に焦点が合うレンズです。

光効率の最適化によりエネルギーロスを6.5%まで減少しています。さらに、瞳孔径に応じて最適に配分されるよう設計されています。

レンズの特性状ハローグレアも少なくなっており、最高の見え方を求める方におすすめです。

乱視がある方も選択できる多焦点レンズです。

自費診療になります。

インテンシティ(乱視なし)790,000円(税込)
インテンシティ(乱視あり)890,000円(税込)
※手術、レンズ代金、術後1ヶ月までの診察代、検査料、薬剤料を含みます。

「ミニウェル」の特徴

多くの多焦点レンズの構造とは違い、「ミニウェル」は球面収差を利用し見える距離を延長した焦点深度拡張型であり、40cmから遠くに焦点があいます。ハローグレアは単焦点と同程度といわれています。

特に遠方から中間の見え方に強みがあります。

多焦点レンズでは少ないローパワー(高度近視)の方にも対応するレンズ度数があるため、多焦点レンズを諦めていた高度近視の方にも挿入可能です。

乱視がある方も選択できる多焦点レンズです。

自費診療になります。

ミニウェル(乱視なし)790,000円(税込)
ミニウェル(乱視あり)890,000円(税込)
※手術、レンズ代金、術後1ヶ月までの診察代、検査料、薬剤料を含みます。